伝統的な行事は旧暦でお祝いする中華民国台湾、お正月も旧暦でお祝いします。旧暦のお正月は新暦ではあさっての2月12日、つまり台湾は今、年の瀬なんです。
私ども台湾国際放送ではこれまでも、新しい年を迎えるたびに、干支にちなんだ食べ物の話題をご紹介してきました。2021年は丑年、食べ物としてもポピュラーな動物、牛が干支ですね。
台湾では、日本統治時代から牛を食べる習慣自体はありましたが、農業社会であったこともあり、農作業の貴重な働き手である牛を食べるのは忍びないという考えも根強く、今でも中南部を中心に牛を食べないという人は一定数います。また、何か願掛けをする時には、牛肉断ちをする人たちもいるんです。
ただ、戦後、国民政府と共に中国大陸から台湾にやってきた人々の多くは牛肉を食べる習慣がありました。こうした人達がもちこんだ様々な料理の美味しさは広く知られるようになり、台湾でも牛肉の料理は、一般的になりました。
牛肉がゴロゴロと入った汁そばの牛肉麵、ぎゅうにくめんは今や台湾を代表するグルメの一つとなっており、様々なコンテストも開かれています。また、美食の街として知られる南部・台南の代表的な朝食メニューには、牛肉の各部位の薄切り肉がたっぷりはいった牛肉湯、牛肉スープがあります。
また、台湾では旧暦の大晦日、つまり今年は明日11日ですね。家族で年越し料理を食べます。この年越し料理でも、しっかり味のしみこんだ牛肉のスライス、そして、ハチノス、胃袋ですね。さらに牛すじ煮込みは「牛肉三寶」、牛肉の3つの宝と呼ばれ、定番料理の一つとなっています。
ただ、台湾ではこうした、いわば中華料理、台湾の庶民グルメの中でのみ、牛肉が食べられているわけではありません。ステーキやバーベキューなどの西洋料理、しゃぶしゃぶやすき焼きといった日本料理として、そして、それがさらに大衆化した料理になり、広く口にされています。そして、日本に勝るとも劣らない進化を遂げているんです。
リスナーの皆様は、「ドライエイジングビーフ」という言葉をお聞きになったことはおありでしょうか。直訳すると「乾燥熟成肉」という意味のこの言葉は、調理前にある程度、乾燥、熟成させることで、食味や食感を変化させた牛肉のことです。ステーキにすると、表面はカリっと焼けていながら、食感は柔らかく、旨みと香りが凝縮され、絶品の味わいということです。
日本でも、2000年代の後半に発祥の地、アメリカから持ち込まれ、この10年あまり流行しています。実は台湾には、「台湾におけるドライエイジングビーフの父」、と呼ばれている人がいます。それが陳重光(ちん・じゅうこう)さんです。
陳さんは、台北市内の高級ホテルのシェフを務めていた2006年、他のホテルとの競争の中、看板レストランだったイタリアンレストランの差別化を図ろうと、ステーキメニューから着手することを決めました。そして、アメリカへ視察した際、「ドライエイジングビーフ」のステーキの美味しさを知ります。そして、台湾に戻ると、早速4つの大型冷蔵庫をもとに、熟成室を見様見真似で試作、熟成肉の製造にチャレンジしました。
当初は失敗続きで、牛肉を熟成ではなく、腐敗させてしまった事も度々ありましたが、くじけずに挑戦し続けた結果、ついに台湾で初めての熟成室づくりに成功します。こうして生まれた台湾初の「ドライエイジングビーフ」のステーキは評判を呼び、お店は大繁盛、同時に陳さんはイタリアンのシェフではなく、「台湾におけるドライエイジングビーフの父」と呼ばれるようになり、2010年には著作も出版しました。
2011年の年末、もともとの牛肉の輸入販売から、会社の規模を拡大させた高級食材の卸問屋「メイフル」が、こだわり食材を扱う直営のスーパーマーケットを開業、そのタイミングで陳さんを引き抜きました。そして「メイフル」は翌年の2012年、牛肉麺のお店と、「ドライエイジングビーフ」のステーキを提供するステーキハウスをオープンさせました。
ホテルのレストランのシェフから、食肉卸へ転職した陳さん、シェフとして「ドライエイジングビーフ」の技術の研究を続けるという点はこれまでと変わりませんが、同時に食肉卸の食肉加工の責任者となったことで、顧客は企業も対象となり、扱うボリュームも比較にならないほどの量となったといいます。
牛肉そのもの酵素と外気の微生物が作用することで、肉の柔らかさ、風味が向上し、旨味が凝縮されるという「ドライエイジングビーフ」、陳さんは非常にわかりやすい例えで、普通の熟成と、乾燥熟成の違いについて説明してくれています。陳さん曰く、みかんの皮が緑色から黄色になるのが熟成ならば、果物の柿が、日差しを浴びて干し柿になるのが乾燥熟成だといい、牛肉も基本的にはこれと同じ原理ではあるものの、牛肉の場合、タンパク質分が多いので、微生物の変化をしっかり管理しなければならないそうです。
こうした繊細な管理が求められるということで、一度熟成室を完成させれば、その後、自由に熟成日数を伸ばせるというほど簡単ではないようです。陳さんは2年ほどで乾燥熟成期間75日間の製品づくりに成功しましたが、さらに100日間まで乾燥熟成の期間を伸ばすのには、もう2年かかったそうです。陳さんによりますと、熟成室の環境だけでなく、肉の産地、えさ、屠殺や輸送のプロセス全てが関係するそうです。
2017年、陳さんは、台湾の「ドライエイジングビーフ」の技術研究そしてマーケット分析をテーマに論文をまとめ、国立台湾師範大学の大学院で、社会人を対象とした経営学の修士課程、エグゼクティブMBAを取得しました。まさにトップランナーですね。
「メイフル」そして陳さんの歩みは止まりません。2019年、直営のステーキハウスに、店内の熟成室としてはアジア最大とされる乾燥熟成室を新たに設けました。10坪ほどの熟成室には130本、約3トンの牛肉が貯蔵されているほか、地下にはこれとは別に、600本ほど貯蔵できる熟成室があるということです。
実際に貯蔵室の中に入ると、熟成チーズのような、生ハムのような食欲を誘う香りが漂います。陳さんは「成功した熟成室は、よい香りがする。失敗した熟成室は酸っぱい匂いが漂っている」と胸を張りました。
「メイフル」のステーキハウスでは、陳さんがこだわった「ドライエイジングビーフ」が、その美味しさを十分に感じられるよう、丁寧に調理され提供されるということです。陳さんが「世界でトップクラスのビーフステーキ」と胸を張るステーキの味、なかなか値が張りそうですが、丑年の今年、お金をためて、実際に味わってみたいなと思います。
Rti 台湾国際放送
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