<第1セクション:阿淘の生い立ちと『傳弦』創作の背景>
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本日は昨年末にリリースされた阿淘(アタオ)こと、陳永淘(チェン・ヨンタオ)さんのニュー・アルバム『傳弦』についてお話ししていきたい。アタオさんは新竹出身の台湾客家のシンガーソングライター。自分の母語である客家語と客家文化を継承し、生まれ育った新竹県関西鎮を中心に、土地との繋がりを何より大切にしてきたアーティストだ。アルバム『傳弦』の「まえがき」には、次のように紹介されている。
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「アタオは幼少期から音楽と踊りにあふれる家庭で育った。記憶の中の両親はいつも客間でレコードをかけては舞踏会を開いていた。子どもたちも会場の装飾を手伝った。天井には色とりどりのテープや万国旗、七色の球が取り付けられ、ベビーパウダーを撒いた床の上を、滑るように行ったり来たりもした。こうして、アタオは子どもの頃からあらゆる音楽のメロディーを耳にしていたのだった。」
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両親だけではない。父方と母方の二人の祖父からも薫陶を受けてきた。「まえがき」の説明は次のように続く。「楽天家だった父方の祖父は、下校時間になるといつも家の入口の前で待ってくれていた。遠目にアタオを見つけると、決まって大声で客家の伝統音楽の「山歌」を歌い始めるのだった。アタオにとっては、このことが幼少期の最も思い出深い出来事となっている。楊梅の母方の祖父は伝統芸能の楽師で、十八番は客家の伝統楽器「椰胡」の弾き語りだった。客家の人間国宝の徐木珍とは旧知の間柄だった。」二人の祖父からも薫陶を受け、アタオさんの内なる音楽の樹はさらにこの土地に深く根を張ることとなった。
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アタオさんの音楽性には、時代背景も大きく影響した。「アタオは第二次大戦後の新旧の世の中が入れ替わる平和な時代に育った。様々なジャンルの音楽が雨後の筍のように続々と生まれた時代だった。アタオは歴史的な文脈から栄養分を吸収しては自らの糧とし、その中から新たな意義を生み出していった。まるで弦の両端のように、一端では母語の文化をしっかりと掌握しながら、もう一端では世界と共鳴していった。」ロックやフォークなどの現代の流行音楽と二人の祖父から受け継いだ伝統音楽が融合した場所に、今のアタオさんは立っている。
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アルバム『傳弦』には、アタオさんが1996年から2024年まで、30年近く醸し続けた音楽作品が収録されており、アタオさんの作品の集大成とも言える記念すべき1枚だ。アタオさんの作品は、台湾という土地に根付いたモノの備忘録であり、今回のアルバムに収録されたどの曲も、母語の文化の継承と革新を巡るテーマの作品ばかりである。ここで、アタオさんのニューアルバム『傳弦』から、アルバムタイトル曲の『傳弦』をOA。
<第2セクション:時代の変遷で酸味が増した『鹹菜湯(カラシナ漬けスープ)』>
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この『傳弦』には、次のような創作背景が記されている。「アタオの母方の祖父は伝統芸能の楽師で、「椰胡」の弾き語りが得意だった。客家の伝統歌謡「山歌」のコンテストでは優勝の常連だった。子どもの頃、アタオが祖父の家に帰省すると、楊梅の古い家の壁には「椰胡」が数本掛かっていたことが大変印象的だった。……青春時代、ロックの流行に影響されてギターを弾き始めたアタオだったが、まさか後年自分が音楽創作の道に足を踏み入れるとは思ってもみなかった。祖父の米寿の誕生日当日、祖父は自分が大切にしていた「椰胡」をアタオに贈った。この突然の意味深い儀式に、アタオは驚きながらも大いに感動した。祖父と孫、二人の音楽のスタイルはまったく異なるが、その魂は通じ合っていたのだ。祖父は大きな期待と祝福を込めて、アタオに「椰胡」を「伝承」したのである。」お祖父さんからアタオさんへ音楽のバトンが渡されたこの儀式は、本当に感動的な話だ。
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ところで、私はアタオさんのこのアルバム『傳弦』の全ての歌詞と「縁起」と呼ばれる創作背景、「まえがき」「あとがき」等のテクストの日本語訳を担当している。私の俳優仲間のアタオさんの友人から、ぜひお願いしたいと頼まれ、この仕事を引き受けることとなった。自分がどれだけ上手に訳せたかは、このアルバムを手に取っていただいた方々に判断していただくしかないが、特に意識したのは、日本語としてのリズム感。できるだけ、五七調や七五調に収まるように言葉を選択した。また、客家文化独特のアイテムをどのように噛み砕き、その一方説明的なりすぎないようにするという矛盾する命題には腐心した。必ずしも容易な作業ではなかったが、自分も言葉を大切にするシンガーソングライターであり、この点ではアタオさんの歌詞の世界にしっかりと寄り添うことはできたのではないかと思っている。
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個人的に気に入っている楽曲はいくつかあるが、客家料理には付き物の「鹹菜(シェンツァイ)」と呼ばれるカラシナの漬物を入れたスープ料理を歌った『鹹菜湯(カラシナ漬けスープ)』を次にご紹介したい。この創作背景は次のとおり。「アタオの故郷の関西鎮は新竹県の東側、牛欄河と鳳山溪が交わるところに位置する。旧名を鹹菜甕(漬物甕の意)と言い、典型的な客家の里で、現在も人情味や客家の伝統文化が色濃く残っている。ここは毎年冬になるとカラシナの収穫の季節を迎える。各家庭では大きな陶製の甕を用いてカラシナを漬ける。収穫から漬け込みまでの一連の流れは、旧正月前の大切な行事となっている。おばあさんが総出の家族の指揮をする。カラシナの発酵を促すため、子どもたちは足をきれいに洗ってから順番に甕の中に入って漬物を踏む。大きな漬物甕は先祖代々受け継がれた宝物であり、家族の情や記憶がいっぱい詰まっている。旧正月の一家団欒の際に円卓に並べられるカラシナ漬けスープは、皆が争うようにいただく一品。関西鎮のカラシナ漬けの味わいは独特のものがあり、他郷をさすらう者にとっては忘れ難く、強烈な郷愁を誘う。」
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しかしながら、「時代の変遷につれ、破れ家となってしまった三合院、蜘蛛の巣が張り土蜂の巣と化した古い漬物甕が目に付くようになった。古い写真が色褪せ、やがては消え失せていくように、大家族が賑やかに和やかに楽しく過ごす光景はもう見られなくなってしまった。アタオが書いた『鹹菜湯(カラシナ漬けスープ)』という曲、それは夢の中の「家庭の味」なのだ。」酸っぱくて深みのある味わいの鹹菜湯(カラシナ漬けスープ)は私も好物である。時代の移り変わりとともに、鹹菜(カラシナ漬け)の酸味も更に増してしまったようだ。アタオさんのニューアルバム『傳弦』から『鹹菜湯(カラシナ漬けスープ)』をOA。
<第3セクション:台湾流行歌の父・鄧雨賢とのコラボ曲『新竹風情』>
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昨年の11月24日にアタオさんのニューアルバム『傳弦』のリリース記念コンサートが、松山文化創意園區の中の誠品パフォーマンスホールで行われた。私もアタオさんにご招待いただき、参加してきた。アコースティックギター、ベース、アコーディオン、パーカッション、バイオリン、チェロといったアコースティックな編成のバンドの奏でる音は温かく優しく、それでいてアタオさんの客家の伝統歌謡「山歌」を彷彿させる唸るような歌声ともマッチしていたのが印象的だった。自分が歌詞を翻訳した楽曲が次々と披露されるのは、特別な感慨があった。
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アタオさんのトークも軽妙で楽しかった。この日、会場でアタオさんのMCで野球の国際大会「プレミア12」で台湾が日本に勝って優勝したという最新ニュースが披露されると、会場は割れんばかりの歓声が上がり、しばし歓喜に包まれた。実はコンサートに参加しながらも、皆さんは台湾・日本戦の行方にヤキモキしていたに違いない。日本が負けたのは残念ではあったが、私は台湾の皆さんがこれだけ喜ぶ姿を見ているうちに、なんだか自分まで嬉しくなってしまった。きっと台湾に住んでいる日本人たちも、私と似たような感情を持った人も多かったのではなかろうか。
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最後にもう1曲、アタオさんのニューアルバム『傳弦』からご紹介したい。『新竹風情』という作品だ。曲は台湾流行歌の父で、「龍潭出身の大先輩で台湾が誇る作曲家の鄧雨賢。彼が唐崎夜雨のペンネームで書いた日本語の歌『蕃社の娘』は、1930年に起こった霧社事件を描いた作品だ。この曲は台湾語では『十八姑娘(十八の娘)』、華語では『姑娘十八一朵花(娘十八花一輪)』のタイトルでそれぞれカバーされている。1998年にアタオが客家語で歌詞を書いた『新竹風情』は、芎林の廣福宮で行われた鄧雨賢記念コンサートで発表された……軽快で躍動感のあるメロディーのこの歌は、「風の視線」から私たちを新竹各地の景観に案内してくれる。アタオによって新たな解釈がなされたこの曲は、故郷の新竹に捧げられるとともに、台湾本土の音楽に多大な影響を残した客家の作曲家へのオマージュともなっている。」『新竹風情』の歌詞の日本語訳を私が朗読した後、本日はアタオさんのこの曲をお聴きいただきながらお別れ。
新竹風情
作詞:アタオ/ 作曲:鄧雨賢
歌詞日本語訳:馬場克樹
ヒュー ヒュルル
新竹に東北の季節風 吹き抜けるよ 吹き抜ける
北埔の枝の柿の実も 真っ赤っかだよ 真っ赤か
竹東の娘っこ お洒落上手だ お洒落が上手
芎林の娘っこ 芎林娘 役者みたいに綺麗だな
ハァー 芎林娘 役者みたいに綺麗だな 役者みたいに綺麗だな
ヒュー ヒュルル
汽車ぽっぽ 湖口の方からやって来る やって来る
小舟っこ 紅毛港に停泊する 停泊する
宝山の月は峨眉湖の水面から 上り来る
横山の風光明媚な山並みは 五峰、尖石へと連なる
ああ、内湾の小さな汽車は ゆっくりと ゆっくり進む
ヒュー ヒュルル
鳳山渓は彼方から流れて来るよ 流れ来る
関西の茶の花 君のため香る 君のため咲く
新埔の米の平打ち麺 みんな大好き みんな大好き
六家の花鼓の隊列は 竹北に向け練り歩く 聴けば心の花も咲く
ハァー 六家の花鼓の隊列は 聴けば心の花も咲く 心の花も咲き誇る
ヒュー ヒュルル
ヒュー ヒュルル
Rti 台湾国際放送
Rti 台湾国際放送 
