<第1セクション【吳慷仁さん主演の『富都青年』】>
-
今週は最近観て心に残った映画を2本、これから上映される映画を1本紹介したい。最初にご紹介するのはマレーシア映画の『富都青年(アバンとアディ)』だ。この映画は昨年の金馬奨国際映画祭(Taipei Golden Horse Film Festival)で、7部門の賞にノミネートされ、主演の吳慷仁(ウー・カンレン)さんが主演男優賞を獲得した作品だ。沖縄太平洋国際映画祭でも審査員賞、観客賞、主演俳優賞の三部門を受賞している。吳慷仁さんと言えば、数々の映画賞やテレビ賞を獲得し、シリアスな作品からコメディーまで、幅広い演技力を誇る台湾では実力派の俳優の一人。
-
舞台はマレーシアの外国人労働者が多く住む「富都バザール」と名付けられた雑居ビル。恐らくどこの国からの移民なのだろう、公民権を持たず、国からの福利厚生やパスポートを持つことも許されない人々が、日雇い労働などで何とか糊口を濯いでいる。吳慷仁さん演じる阿邦(アバン)とマレーシアの俳優、陳澤耀(ジャック・タン)さん演じる阿迪(アディ)の兄弟も、その雑居ビルの中で暮らしている。兄の阿邦は生まれつき耳が不自由で言葉も正確には発音できない。だが、弟思いでどんなに厳しい仕事でも、安定した生活のためならと、愚痴をこぼさずにやり遂げる一途な青年だった。
-
一方の弟の阿迪は、自分の運命に抗うように、偽造証明書売買の違法ビジネスに手を染め、何とか一儲けして兄をこの劣悪な環境から連れ出したいと躍起になっていた。この二人を見かねたNGOのスタッフ佳恩(林宣妤/セリーヌ・リムさん)が、自ら進んで二人の両親を追跡調査し、出生証明を手に入れ、二人の公民権申請手続きのサポートしようとする。ところが、この好意が仇となって事件が発生、阿邦と阿迪の兄弟も運命の渦に飲み込まれていく。
-
何より感心するのが、どんな役柄の演技でもこなすことでカメレオン俳優とも巷では呼ばれている吳慷仁さんが、今度はアウェイのマレーシアで聴覚障がい者役という難しい演技に挑み、複数の映画祭で主演男優賞まで獲得していることだ。手話もところかわればその仕草も当然変わる。マレーシアも7割は華人社会とはいえ、北京語も客家語も広東語も福建語が飛び交い、日常会話にはマレー語や英語由来の言葉も混じるため、閩南語由来の台湾語や台湾華語と呼ばれる北京語もそのまま全部通じるとは限らない。言葉が話せてもアクセントの違いや使っている単語の違いで戸惑うこともあるだろうに、マレーシア華人社会で使われている手話を一から覚え、それをセリフとともに滑らかに使いこなすことがどれだけ大変なことであるか、皆さんもぜひ想像してみてほしい。それくらい吳慷仁さんの演技は圧巻だった。特にクライマックスシーンは心を激しく揺さぶられた。金馬奨主演男優賞を受賞したのも大いに頷ける演技だった。
-
この作品のマレーシア人監督、王禮霖(ジン・オン)さんは、この『富都青年』で初めての長編映画のメガホンを執ることとなった。貧民窟の公民権を持たない移民労働者という、他文化共生を謳うマレーシア社会のエアポケットに落ち込んでしまったような、社会的弱者の暮らしぶりや葛藤を実に丁寧に描いている点にも感心させられる。昨年の金馬奨国際映画祭では、見事新人監督賞にもノミネートされた。この作品は昨年11月27日に台湾でプレミア上映され、その後12月に台湾全土で公開。その後は香港、マカオ、マレーシア、シンガポールと華語圏で続々と公開され、チケットセールスも1億台湾元(5億円弱)を記録するほどの反響を呼んだ。台湾で公開されたマレーシア映画では、トップの成績だ。
-
また、もう一つ注目したいのはこの映画の主題歌『一路以來 A Walk To Remember』と作品全体の音楽を担当したのが、片山涼太さんという日本人とマレーシア人のミックスの音楽家だという点だ。昨年の金馬奨国際映画祭の授賞式のステージでも演奏を披露し、この主題歌も最優秀オリジナル映画楽曲賞にノミネートされた。人生の切なさ、やるせなさをピアノの伴奏に乗せて「一路以來(初めからずっと)」と繰り返されるフレーズは、私の心の中で今でもこだまし続けている。ここで片山涼太さんの歌で『一路以來 A Walk To Remember』をOA。
-
実はこの作品はずっと観たいと思いながらも、ロードショーの時期がちょうど12月で自分の音楽ステージの繁忙期と重なってしまい、公開時期に映画館に行くのを逃してしまっていた。結局、先日日本に一時帰国するフライトで機内でようやく鑑賞することができたのだが、映画はやはり大画面のスクリーンでみたい。また、飛行時間の短い台湾〜日本線だったため、行きのフライトではエンディングの10分前で目的地に到着してしまい、結局台北に戻るフライトで続きは見ることとなった。
<第2セクション【許光漢さん、清原果耶さん主演の『青春18×2』】>
-
続いてご紹介する映画は、3月14日に台湾で公開されたばかりの、許光漢(シュー・グァンハン)さん、清原果耶さん主演の『青春18×2〜君へと続く道〜』だ。エグゼクティブ・プロデューサーが張震(チャン・チェン)さん、脚本と監督は『余命10年』の藤井道人さんという日台合作映画だ。この作品に関しては、投資企業のプロデューサーさんからご招待いただき、おかげさまで貸切上映の形で、今回はしっかりと映画館で観ることができた。
-
実はこの作品は十年前から映画化の話があった。だが、その度に話が浮上しては消え、浮上しては消えというのを繰り返していた。少なくとも3つの異なる制作チームがこの作品を撮ろうと努力してきた経緯を私は目の当たりで観てきた。数年前には、私もプリプロダクションで少し関わりかけたのだが、その時も結局コロナ禍で頓挫してしまった。それほど難産の作品だった。それでも、仕切り直しをした末、張震さんと藤井道人さんがタッグを組んで、この作品がようやく日の目を見たことは、とても感慨深い。粘り強く映画化を実現させた今回のスタッフ、関係者の皆さんに心からの敬意と祝福を贈りたい。
-
そのような訳で、私はこの作品のストーリーや結末も最初から知っていたのだが、それでも真っ直ぐな青春ドラマには素直に感動し、後半のクライマックスでは涙腺が崩壊した。ミスチルのエンディング主題歌の『記憶の旅人』も心に刺さった。キャスティングも俳優さんの演技も素晴らしく、張孝全(ジョセフ・チャン)さん、黒木華さん、黒木瞳さん、松重豊さんといった名優の皆さんが脇を固めているのも、作品に安定感をもたらしている。
-
ロードムービーでもあるこの作品は、湘南、松本、長岡、只見など日本各地の冬景色、飯山線、只見線などローカル鉄道の映像も美しい。また、台南の「全美戯院」「首廟天壇」「漁光島」「武聖夜市」「保安車站」、「天燈」でお馴染みの新北市平渓の「十分車站」などの観光スポットもしっかりと盛り込まれている。台湾の観客にとっても、日本の観客にとっても、映像を通じてお互いの魅力を体感できることもこの映画の見どころの一つだ。
-
物語は、18年前の台湾の台南から始まる。台北の大学入試に合格が決まったJimmy(許光漢さん)が、アルバイト先のカラオケ店で自分より4歳年上の日本からのバックパッカーAmi(清原果耶さん)と出会う。JimmyはAmiに恋心を抱く。一夏の間、同じカラオケ店で働くこととなった二人は、しょっちゅう一緒に出歩き、どんどん関係は親密になっていく。ところが、ある日突然Amiは日本に帰国すると言い出す。この決断に苦悩するJimmyに対してAmiはある提案をする。「お互いに夢を叶えたら、また会おう」。それから18年後、仕事に没頭してきたJimmyだったが、そのワンマンぶりから周囲の反感を買い、自身が創立したゲーム会社を取締役会の決定で解任されてしまう。失意のうちに台南の実家に戻ったJimmyは、18年前にAmiが日本から送ってくれた絵葉書を見つける。初恋の記憶を取り戻したJimmyは、日本での一人旅を決意し、Amiの故郷を目指す。この続きは、ぜひ映画館でご覧いただきたいと思う。
-
ここで、Mr.Childrenさんの歌でこの映画の主題歌『記憶の旅人』をお聴きいただこうと思ったのだが、この曲はまだ発売されていないためOAできず。代わりに台湾国際放送の音楽アーカイブに唯一あったMr.Childrenの『I’ll be』をOA。
-
『青春18×2〜君へと続く道〜』の台湾でのチケットセールスは、3月14日の公開初日から最初の週末の4日間で、2,800万元(およそ1億3千万円)を記録し、早くも大ヒットの兆しを見せている。このままどこまで伸びるのか、注目していきたい。この作品は4月10日からマレーシアで、5月3日からは日本でも公開される。日本の皆さんも公開を楽しみに待っていただきたい。
<第3セクション【台湾国際ドキュメンタリー映画祭上映作品『由島至島』】>
-
台湾には同じ華人社会のためか、マレーシアやシンガポール出身の映画人やミュージシャンが実は少なくはない。その一人にマレーシア出身の映画監督、廖克發(ラウ・クッファッ)さんがいる。2019年には長編映画『波羅蜜(ジャックフルーツ)』で金馬奨国際映画祭の新人監督賞に、2022年には、マレーシアの無国籍の水上生活移民を扱ったドキュメンタリー映画『一邊星星 一邊海浪(星と波の間)』で金馬奨最優秀ドキュメンタリー映画作品賞にそれぞれノミネートされている。
-
その廖監督の新作ドキュメンタリー映画で、第二次世界大戦の日本軍のマレー戦線を扱った『由島至島(島から島へ)』が完成し、台湾国際ドキュメンタリー映画祭に招待され、三部門の賞にノミネートされたとの報が入った。5月11日の同映画祭でのプレミア上映には、私も招待されている。実は、このドキュメンタリーの再現映像の部分で私は旧日本軍将校の役で出演している。5時間にも及ぶ大作になったという話だが、今から観るのが楽しみだ。
-
廖監督とは、12年前に彼が台湾芸術大学の大学院生時代に撮影監督して参加した、東日本大震災の被災地の宮城県気仙沼の復興を扱ったドキュメンタリー映画『未来への元気』で、私は現地での通訳兼コーディネーターと挿入歌の提供で協力させてもらったことがある。10年の時を経て実力派の映画監督として独り立ちした廖さんの作品に、今度は俳優として参加できたのは本当に感慨深いものがあった。
-
本日のお別れの曲は、2012年の台湾映画『逆光飛翔(邦題:光にふれる)』の主題歌で私が作曲し、シンガポール出身の蔡健雅(タニア・チュア)さんが歌った『很靠近海(海のそばで)』。
Rti 台湾国際放送
Rti 台湾国際放送 
