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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」) - 2025-03-09-臭豆腐に魅せられて

  • 09 March, 2025
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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)

<第1セクション:臭豆腐は台湾社会に馴染んだかどうかを知るバロメーター>

  • リスナーの皆さん、こんばんは。先日、台湾在住の作家の木下諄一さんにお越しいただき、木下さんから新著『日本人的台湾美味』の内容を紹介していただいた際に、「臭豆腐が食べられるかどうかは、自分が台湾の社会にどれだけ馴染んだかの一つのバロメーター」というお言葉をいただいた。木下さんのこの言説には私も大いに頷いた。本日は週に2回は必ず食べるほど臭豆腐が好物の私が、台湾を代表する「小吃」の一つ、臭豆腐について徹底解剖していきたい。

  • まず、臭豆腐の歴史から紐解いてみよう。台湾の臭豆腐の起源は、中国の清朝時代にまでさかのぼると言われる。もともとは中国で誕生した食品だが、台湾に伝わり、独自の発展を遂げた。臭豆腐の起源については、以下のような説がある。

  • 清朝・安徽省の書生説:清の康熙帝(在位1661~1722年)の時代、安徽省のある書生が科挙試験を受けるために北京へ向かった。しかし試験に落ちてしまい、生活のために豆腐を作って売ることにした。余った豆腐を保存するために塩水に漬けておいたところ、数日後に発酵し、独特の強い匂いを放つようになった。試しに食べてみると、意外にも美味しかったため、売り始めたところ人気が出たという話。

  • 豆腐職人による偶然の発明説:ある豆腐職人が、余った豆腐を保存するために発酵させたところ、独特の風味を持つ食品として評判になり、それが臭豆腐の原型になったという説もある。

  • 臭豆腐は、19世紀末から20世紀初頭にかけて中国から台湾に伝わった。特に湖南省や江西省出身の移民が持ち込んだとされ、台湾で独自の調理法が発展。台湾の臭豆腐には、主に以下の3種類がある。

  • 揚げ臭豆腐(酥炸臭豆腐):一般的に夜市などで売られているスタイルで、外はカリカリ、中はふわっとした食感。甘辛い「醤油膏(とろみ醤油)」のタレやニンニク、「泡菜(キャベツなどの甘酢漬け)」等の漬物と一緒に食べるのが特徴。「碳烤臭豆腐(焼き臭豆腐)」もあるが、これもいったん厚揚げ状に油で揚げたものをさらに鉄板などで焼くスタイルであることから、揚げ臭豆腐の変形スタイルと私は認識している。

  • 煮込み臭豆腐(臭豆腐火鍋、麻辣臭豆腐):スープで煮込んだもので、「火鍋(鍋物)」の具材として使われることが多い。独特の香りがスープに溶け込み、より濃厚な味わいになる。匂いは揚げたものより強烈になる場合が多い。しばしば「鴨血(アヒルの血を豆腐状に固めた台湾の鍋物の具材)」と一緒に、唐辛子や花椒などで「麻辣(痺れを伴うピリ辛)」に味付けされることが多い。

  • 蒸し臭豆腐(現蒸臭豆腐):また、「現蒸臭豆腐(蒸し臭豆腐)」は、鍋で煮込みむのではなく、蒸籠などで蒸したものだが、蒸す過程で調味料と蒸気でスープができるので、見た目は煮込み臭豆腐に似ている。盛り付けの際には、煮込みが鍋やお碗など底が深い器で出てくるのに対し、蒸しは底の浅い皿で出てくることが多い。この蒸したものが一番匂いが強いと言われている。

  • 台湾の夜市では、揚げた臭豆腐の香りが漂い、地元の人々だけでなく、怖いもの見たさ、チャレンジ精神というのか、好奇心にあふれる観光客にも人気の食べ物となっている。台湾の臭豆腐は、中国のものよりも比較的マイルドな発酵臭が特徴で、台湾独自の発展を遂げた一品。強烈な匂いのその先の至福に辿り着くまでのハードルは、実はそこまで高くないはず。発酵食品として健康にも良いとされ、一部の人には「クセになる味」として親しまれている。「臭豆腐が食べられるかどうかは、自分が台湾の社会にどれだけ馴染んだかの一つのバロメーター」という木下諄一さんの台詞は実に言い得て妙、名言だ。

  • 台湾の庶民派歌手・陳雷さんの『風真透(hong-tsin-thàu)』。風は強くても肩の力を抜いて生きていこうよというメッセージが込められた1曲。

<第2セクション:臭豆腐の製造方法、調理方法>

  • 臭豆腐は、豆腐を「滷水」と呼ばれる特殊な発酵液で漬け込み、発酵させることで独特の香りと風味を生み出す。臭豆腐の製造工程には、通常は固めの木綿豆腐が使用される。豆腐を適当な大きさ(3〜5cm角程度)に切って発酵液に漬け込むのだが、伝統的な発酵液には、以下の材料を使用:①発酵野菜(白菜、からし菜など)、②大豆、茶葉、五香粉(シナモン、八角などのスパイス)、③米酒、塩水、老鹽水(熟成塩水)地域によっては、エビや貝類などの魚介類を加えてさらに発酵を促す場合もある。これらの材料を微生物によって発酵を進める(数週間~数か月)。日本の糠漬けの糠床づくりという感じだろうか。

  • そして、豆腐をこの発酵液に漬け込み、発酵させるというプロセス。時間は数時間~数日。短期間ならマイルドな臭いに、長期間なら強い発酵臭になる。低温でゆっくり発酵させることで、風味が深まる。また、臭豆腐の伝統的調理方法は次の通り。

  • 揚げ臭豆腐(炸臭豆腐) – 台湾夜市の定番:発酵させた豆腐を取り出し、よく水気を切る。油を170~180℃に熱し、表面がカリカリになるまで揚げる。仕上げにとろみ醤油、ニンニク、唐辛子などの入った甘辛ダレや、キャベツの甘酢漬け(泡菜)を添える。これで外はカリカリ、中はふわっとした食感が楽しめる。

  • 煮込み臭豆腐(臭豆腐火鍋、麻辣臭豆腐):発酵させた豆腐を、鴨血(アヒルの血を豆腐状に固めたもの)を唐辛子や花椒の入ったピリ辛スープや漢方食材の入った薬膳スープで煮込む。豆腐がスープを吸って(「入味」と表現される)、さらにコク深い味わいとなる。冬場に人気の料理で、火鍋の具材として使われることが多いが、冬は身体を温め、夏は発汗を促し、季節を問わず楽しむことができる。蒸し臭豆腐については、先ほど調理方法は説明したので省略。

  • 臭豆腐は家庭でも作ることは可能だが、発酵液は本格的に作るところから始めると数週間〜数か月と時間がかかるため、市販の発酵豆腐(腐乳)や納豆菌を使って短時間で発酵させる方法もある。また、初めて作る場合は、市販の発酵臭豆腐を使って揚げるのがおすすめ。発酵食品として栄養価も高く、特に植物性乳酸菌が豊富な臭豆腐。私はスープの味が染み込んだ煮込みが1番のお気に入り。皆さんはどんな調理方法が好み?

  • 本日の二曲めも陳雷さんの歌で『歡喜就好(huann-hí-tio̍h-hó)』をOA。「楽しければそれで良いんだ」と、人生を楽観的に生きようという内容の歌で、こちらも台湾の庶民の生活感覚に溢れた1曲となっている。

<第3セクション:臭豆腐の個人的グルメリスト>

  • 最後に私の臭豆腐の個人的グルメリストを紹介しておこう。揚げ臭豆腐で私が最も好きなのは、花蓮県玉里鎮の「玉里橋頭臭豆腐」だ。「橋頭」は「橋のたもと」の意味。ここの臭豆腐は、揚げ臭豆腐の醍醐味である「表面はカリカリ、中はふんわり」が実に理想的に体現されている。豆腐自体の旨味も豊かで香りも良く(心地よい臭さで)、付け合わせのキャベツの甘酢漬け、タレも含めて調和の取れた一体感は忘れられない一皿となっている。花蓮市内や台北市内にも支店ができているようだが、ロケーションや店構えも含めて、玉里の本店が私の一押しである。

  • 蒸し臭豆腐では、台北市内の「南機場夜市」の「禾甲蒸臭豆腐」と近年ミシュランのビグルマンを獲得した「臭老闆現蒸臭豆腐」が私の中では双璧で、甲乙付けがたい存在だ。「禾甲」は台湾語で華語の「好吃(美味しい)」を表す音の当て字。「臭老闆」は「鼻持ちならないオーナー」という意味で、店名は「嫌われオヤジの蒸したて臭豆腐」という感じだろうか。自宅から少し離れているので、しょっちゅう通っているわけではないが、萬華方面に用事があるとつい足が向いてしまう場所だ。どちらも蒸し臭豆腐の芳しい(と私には感じられる)香りが店内に立ち込め、もうそれは上品な味わいの臭豆腐で、胃袋が許せば何皿でも行きたくなるような滋味溢れる一皿だ。

  • そして、最後に煮込み臭豆腐だが、台北から宜蘭に向かう方向にあり、豆腐の街として知られる「深坑老街」の「深坑好家園」。深坑はどこのレストラン、食堂に入ってもハズレは無いという印象を私は持っている。ここでは揚げ、煮込み、蒸しの基本に加えて、煮込みは様々な味付けのものが選べ、また臭豆腐と筍など地元の食材を使った炒め料理、三杯臭豆腐など土鍋料理もあり、臭豆腐三昧をとことん楽しむことができるのが最大の魅力だと思っている。

  • 煮込み臭豆腐と言えば、昨年自宅から歩いて5、6分の場所に、24時間営業の台湾「小吃」の専門店ができて、そこでは「肉圓(パァワン)」や「甜不辣(台湾式おでん)」に混じって、「麻辣臭豆腐(ピリ辛臭豆腐)」も売られている。ピリ辛の煮込み臭豆腐は、小サイズだと5片ほどの臭豆腐が入っていて55元(270円程度)とお財布にも優しく、とても重宝している。日によって煮込み加減にムラがあるのが玉に瑕だが、しっかりと味が染み込んでいる時は実に美味しく、今時この値段で良いのかとそのコスパの良さに有り難さまで感じるくらいだ。今回の台本を執筆していた際に、夜中に無性に臭豆腐が食べたくなってしまった。私が嬉々としてこの店に駆け込んだのは言うまでもない。

  • 本日は台湾庶民の「銅板小吃(コインで食べられる軽食、財布に優しいスナック)」で私の好物の臭豆腐について、その起源や製造方法、調理方法、個人的なグルメリストも交えて紹介してきたが、いかがだっただろうか。『臭いものはうまい』と日本の発酵学者の小泉武夫さんはおっしゃったが、日本のくさやも鮒ずしも納豆も、世界一臭い食べ物と言われるスウェーデンのシュール・ストレミングも、共通する点は発酵食品である点だ。発酵の段階でタンパク質が分解されて、旨味の素となるアミノ酸が生まれる。だから美味い。しかし、その一方で独特の匂いも生成される。それは必ずしも万人受けするものではないかもしれないが、いったん好きになってしまえば、その味から離れられなくなってしまうという性質のものだ。

  • 肩肘張らずに気楽に生きようよ、楽しければそれで上等という台湾庶民の哲学に、臭くても美味しければそれでいいじゃないという臭豆腐はどこか通じるものがあると私は思う。台湾の人々から臭豆腐が愛される理由はこんなところにもあるのかもしれない。

  • 本日のお別れの曲は、1949年に台湾の偉大な音楽家・呂泉生さんが作曲した『杯底毋通飼金魚(Pue-té m̄-thang tshī kim-hî)』を劉士嘉さんの歌でお届け。タイトルの「杯底毋通飼金魚」は台湾語の俗語で、「コップの底に水分(ここでは酒を指す)を残して金魚を飼ったりしてはいけない」、つまり「盃に残った酒は飲み干せ」という意味となる。もちろん、酒の中で金魚は飼えないが、このような言い回しに私は台湾語特有の機微(ウィット)を感じる。そして、この歌は酒を飲んで享楽にふけることを勧めるのはもってのほかという理由で、戒厳令下の当時は「禁歌(歌うことを禁止)」となった歴史をも持つ。暗い時代背景の中でも精一杯今を楽しく生きようという反骨精神に満ちたメッセージを私は感じる。

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