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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」) - 2025-1-19-舞台劇『たかが十年の祭り』と『天王降臨多久川』

  • 19 January, 2025
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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)

<第1セクション:日本の演劇集団ゴツプロ!の『たかが十年の祭り』>

  • リスナーの皆さん、こんばんは。今年の正月は五年ぶりに日本の実家で過ごした。台北のホテルや観光スポットで開催される年越しカウントダウンイベントに出演してから、元日に日本に一時帰国するのが長年の習慣だったが、年末の大晦日に帰省するのは初めてのことだ。年越しそばをいただいたのも、コタツで紅白歌合戦を観たのも、もう何年前のことなのかすら思い出せないくらい昔の話だ。

  • オンタイムで見た今回の紅白歌合戦では、私にとっては特別なものとなった。自分の青春時代に寄り添ってくれた往年のフォーク、ニューミュージックの騎手たちが続々と登場し、その1曲1曲が心に刺さった。南こうせつさんの『神田川』、イルカさんの『なごり雪』、高橋真梨子さんの『for you···』、THE ALFEEの『星空のディスタンス』、どれも素晴らしいパフォーマンスだった。THE ALFEEの櫻井さんを除けば、いずれも70代の先輩方が往年と遜色のない見事な喉を披露してくれたのには本当に感動した。

  • さて、紅白歌合戦の3日前、私は台北で2つの舞台をハシゴして観劇した。本日はそのことについてご紹介していきたい。12月28日の午後、塚原大助さんが主宰する日本の演劇集団「ゴツプロ!」の『たかが十年の祭り』の公演が、「北投小劇節(北投小劇場フェスティバル)」に参加する形でおこなわれた。このフェスティバルは、下北沢の本多劇場で行われている小劇場の芝居をエッセンスとして2020から始まった。また、ゴツプロ!主宰の塚原さんと言えば、昨年話題となったドラマ『聽海湧(邦題:波の音色)』の田中司令官役で出演し、周りを震撼させるような渾身の演技で台湾の演劇界にもかなりの衝撃をもたらした俳優さんだ。

  • このドラマでは、私も日本から派遣された弁護士團団長の高橋役で出演したので、塚原さんとは現場を同じくした仲間でもある。それゆえ、彼を応援したいという気持ちは最初からもちろんあった。だが、新型コロナウィルスが大流行する直前の2020年2月に、明治時代の北海道のニシン漁師を描いたゴツプロ!の舞台『狭間の轍』を観て心を揺さぶられたことのあった私は、ほぼ5年の時を経て、彼らがいったいどんな芝居を台湾に持ってきたのかという点に純粋に関心があったのだ。今回の舞台も期待を裏切らない凄まじい熱量だった。俳優の皆さんの演技力も圧巻だった。

  • ゴツプロ!のウェブサイトの『たかが十年の祭り』のイントロダクションには、次のような解説が載っている。「1940年代、戦中の温泉街”北丿沢温泉”。出兵を免れた初老の男たちが、今年も意気揚々と祭りの支度をしはじめた。昭和初期の旅行ブームに乗って開発された温泉街。街を盛り上げようとつくられた祭りは今年で十回目を迎える。戦中、遊興禁止が叫ばれる中、国威高揚、戦死者鎮魂、あれやこれやと理由をつけて、昨年は開催にこぎつけた。さぁ今年もと意気込む男たち。ただ、戦局はあまりにも悪化の一途を辿っていた。歴史も伝統もない、担い手も賛同者もいない、なにより、理由も理屈も見当たらない、たかが、十年の祭り。その祭り、無謀。ゴツプロ!記念すべき第十回公演は、劇団員6名のみでお送りする、見えもしない光に向かって濁流を突き進む男たちの物語」。

  • 台湾の北投温泉を拓いた日本人が夢で龍神を見たというエピソードからから、この芝居の着想を得たと作・演出家の川名幸宏さんがアフタートークで披露してくれた。私はそんな物語があったことはつゆ知らなかったが、この芝居が「北投小劇節(北投小劇場フェスティバル)」に参加することになったのも、こうしたご縁があってのことだ。台湾の皆さんにとってもシンプルでストレートな物語はとても伝わりやすかったと思う。観に来ていた台湾の観客の方々の反応もすこぶる良好だった。その一方で、私はこの舞台に一抹の違和感を抱いた。しかし、年末の日本への一時帰国に向けて慌ただしい時間を過ごす中で、それが何であったのか未消化のまま年を越してしまった。

  • そんな折、台湾在住の作家の栖来ひかりさんが、ご自身のFacebookで、私の違和感の原因を端的に指摘する投稿をしていた。栖来さんは、まずこの演劇へのポジティブな評価をひとしきり述べた上で、戦前日本の統治下にあった台湾における神社の意味、とりわけ皇民化政策や言語統制との関係については触れられておらず、戦争の描き方について加害者としての視点の欠如があるのではと指摘し、「今年、戦後80年という節目の年に台湾で演じることを想定した舞台が、どうしてこれなのだろう」との疑問を同時に呈していたのだ。まさにそういうことだと思った。この時代を背景とした舞台を、この土地で行うのであれば、もう一歩この土地や人々に寄り添って考える必要はあったのかもしれない。本当に素晴らしい舞台なだけに、その部分は今後の伸び代と私も考えたい。

  • さて、ここで昨年末の紅白歌合戦でTHE ALFEEが披露した『星空のディスタンス』をお聴きいただきたかったのだが、こちらではカバーされた痕跡が見つからなかったので、同じくTHE ALFEEのヒット曲『メリーアン』の広東語のカバー曲で、香港のアーティスト譚詠麟(アラン・タム)さんが歌った『捕風的漢子(風を捉えた男)』をOA。

<第2セクション:台湾舞台劇の旗手・僻室House Peaceの『天王降臨多久川』>

  • ゴツプロ!の『たかが十年の祭り』を観劇した同じ日の夜、今度は台湾の国立劇場に当たる「国家戯劇院実験劇場」へ向かい、台湾の舞台劇の世界では異彩を放っている劇団・僻室House Peaceの『天王降臨多久川(天王星が多久川に降臨)』を観に行った。躍動感あふれるゴツプロ!の芝居を観た直後だということもあってか、この芝居の終始一貫した重苦しい雰囲気との落差に、正直戸惑いながら観劇することとなった。天王星は西洋占星術の世界では、驚きや変化をもたらす星とされている。その天王星が降りてきたのであるから、きっとただ事ではない。ちなみに「多久川」は福岡県を実際に流れている川で、したがって舞台は九州。脚本家の陳弘洋(チェン・ホンヤン)さんが、アーティスト・イン・レジデンスで福岡に滞在していた時に、多久川の辺りでこの芝居を着想したそうだ。

  • 台湾のウェブ雑誌『表現藝術評論台』の10月14日付の許映琪(シュィ・インチー)さん署名の記事「苦悩を言葉の隙間から拾い上げるーー『天王星が多久川に降臨』」では次のように解説されている。「『天王星が多久川に降臨』の脚本は、第23回台北文学賞でグランプリを獲得した作品。物語は母親と姉の筱如(シァオルー)が、遠く日本に嫁いだ妹の怡真(イージェン)を訪ねるところから始まる。ところが、怡真の夫の修平は多久川でなんと(自分の妻の姉の)筱如の自殺幇助をしてしまう。劇中のそれぞれの登場人物ーー筱如、怡真、修平、そして怡真の家に居候をしている建安(ジエンアン)、ひいては歯に絹を着せず、真っ直ぐな物言いをする母親に至るまで、実は皆が皆、他人には言えない苦悩を抱えている。ただそれぞれの異なる思惑に呼応するように、最終的には皆バラバラの姿になってしまう。」そういう筋立ての芝居だった。

  • 舞台は日本に嫁いだ妹で、主人公の怡真の家のリビングダイニングを俯瞰するように、ずっと固定されたままとなっている。登場人物はそこに入れ替わり立ち替わり出入りする。観客はあたかも監視カメラを通して、登場人物たちの生活や会話のやりとりの一部始終を覗いているような錯覚に陥る。「言葉に表さない苦悩」ーーこれがこの演劇の一貫したテーマだ。「居候の建安は抗うつ剤を多量に服用しているし、姉の筱如は何度も自殺を仄めかしている。主人公の怡真も「我在這裡好不快樂(ここはちっとも楽しくない)」と吐き捨てる。修平は寡黙なのだが、それは言葉が通じないからなのか、内部で孤立状態に立たされていることの表れなのか、知る由もない。」と解説は続く。

  • こうした登場人物の原因のわからない苦悩を延々と見せつけられて、観客もどんどんと救いの無い苦しい気持ちになってくる。そして、この評論では「実は言葉では言い表せない、あるいは言い表さないというのが、まさに苦悩の特質」と結論付けている。さらに「自分は観客席に座って、舞台上で発生するすべてのことを傍観していた。しかし、私たちは他人の苦悩を軽く見ることに慣れすぎてしまったのではないか」と自問する。現代社会で毎日新聞を賑わせている殺人事件や金銭の揉め事から家庭内暴力やセクハラ至るまで様々な問題について、もっと関心を向けるべきではないか、傍観者でいることを自省すべきではないか。こうしたメッセージを発する芝居だったという見方には頷ける。

  • この舞台では、主人公・怡真の夫の修平役で、台湾在住の日本人俳優・タミオさんこと、蔭山征彦さんが出演していた。ほぼ三十年前に日本の舞台劇『アナザー・カントリー』でデビューし、台湾でも数々の映画やドラマに出演、台湾のエミー賞と言われる「金鐘奨」で最優秀助演男優賞にもノミネートされた蔭山さんの円熟味が増した安定した演技は、なるほどキラリと光っていた。ただ、寡黙な日本人の夫という設定だったので、蔭山さんのセリフが極めて少なかったのは、何とももったいないという気もした。舞台が終わった後、「熱炒」と呼ばれる台湾式居酒屋で、蔭山さんと軽く打ち上げをし、芝居談義ができたのが、重苦しい芝居の後の一服の清涼剤となった。

  • では、ここで高橋真梨子さんが昨年の紅白歌合戦で歌った『for you…』の広東語のカバー曲で、これも譚詠麟(アラン・タム)さんの『霧之戀』をOA。

<第3セクション:帰省のフライトで昨年の旧正月映画『小子 KIDS』を鑑賞>

  • 日本への正月帰省の前にどっぷりと舞台劇に浸かれたのは、役者としていい栄養補給となった。日本で家族と過ごした正月もいい充電期間となった。台湾に帰るフライトで、たまたま機内エンターテイメントのプログラムに、昨年の台湾の旧正月映画『小子 KIDS』があるのを発見した。この映画には、ホテルの客の日本人の社長という設定で私も出演している。ただ、関係者向けの試写会も開かれず、昨年公開後のチケットセールスも散々で、製作サイドが大赤字となってしまった作品だ。だから、まさか自分が乗ったフライトでお目に掛かれるとは思ってもみなかった。これは観てみるしかない。

  • 自分の出演している作品を映画館のスクリーンやパソコンの画面で観ることには私も慣れているのだが、飛行機の中の小さなモニターで見る経験は初めてだった。なぜかこそば痒いような、自分の映っているシーンを隣の乗客には覗かれたくないような、ちょっと不思議な感覚になった。この映画では、主人公の一人、李霈瑜(リー・ペイユィ)さん演じるホテルの清掃員・芽芽(ヤーヤー)との絡みで、2シーンほど私も登場している。李霈瑜さんは、「金馬奨」国際映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、特殊視覚効果賞の主要五冠を達成し、日本でもリメイクされた『消失的情人節(邦題:1秒先の彼女)』でも主役の曉淇(シァオチー)を演じ、私も謎の和尚役で出演したので、現場でご一緒するのは2回目だった。ロードショウでは残念な結果だったが、せめて機内エンターテイメントでは、一人でも多くの方に観ていただきたいと思う。

  • 本日は紅白に出演した往年のフォーク出身の歌手のカバー曲を逐次ご紹介するつもりだったが、イルカさんの『なごり雪』は、香港の蔡齡齡(アリン・チョイ)さんが広東語でカバーしているものの、残念ながら音源が見つからなかった。したがって、紅白出場歌手ではないが、寒い時節柄、私の大好きな浜田省吾さんのヒット曲『悲しみは雪のように』の北京語のカバー曲で、マレーシア出身の巫啓賢(エリック・ムー)さんが歌った『就這樣分手』をお聴きいただきながらお別れしたい。

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