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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」) - 2024-10-13-最近心に残った映画からVol.3:『種土(Soul of Soil)』

  • 13 October, 2024
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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)

<第1セクション:ドキュメンタリー映画『種土』:阿仁の失敗?>

  • リスナーの皆さん、こんばんは。本日は「最近心に残った映画から」シリーズの第3回をお伝えしていく。ドキュメンタリー映画の『種土(Soul of Soil)』について、私なりの視点から解説していきたい。

  • 2005年に台北映画祭でグランプリに当たる「百萬首奨」を受賞したドキュメンタリー映画『無米樂(Let It Be)』の顔蘭權監督が、足掛け8年もの時間をかけて製作した作品で、先月9月20日から台湾全土の映画館で上映されている。私も先日、元駐中華民国アメリカ大使公邸跡の「光點台北」の映画館で観劇した。『無米樂(Let It Be)』は稲作農家の成功物語だったが、『種土(Soul of Soil)』を一言で表すなら、台湾の農業用地の汚染に心を痛めた二人の男の、それぞれの土壌改良への挑戦と挫折の物語である。また誤解を恐れず別の表現をするならば、ドキュメンタリーの被写体となった主人公の二人に加え、彼らの生き様を撮影した顔監督も含めた、真っ正直に信念を貫いた三人の物語とも言える。

  • 台湾の農業用地は長年の化学肥料と農薬の使用によって、だんだんと瀕死の状態になってしまったとドキュメンタリーの映像はまず伝えてくれる。主人公の一人、2017年の撮影開始当時41歳の阿仁(アレン)は、36歳の時に高収入で知られる新竹のIT企業を辞め、家族を連れて高雄市橋頭区の台湾製糖の土地の一角を借りて移り住む。事前の研究と準備を重ねた上で、2年後の38歳の時から青物市場から出る大量の野菜や果物クズを原料に堆肥を作り始めていた。ゴミの山から堆肥を作るという阿仁の基本的考え方は、環境に優しいリサイクルと永続的発展(サスティナブル・ディベロップメント)を目指したものである。

  • 阿仁は顔監督の『無米樂(Let It Be)』を観てから、それに触発されてこのような考えを持つようになったそうだ。この考え方自体は間違っていない。ただ、一個人が自分の妻や子どもたちを巻き込んで奮闘するには、限界があった。重機を借りて土地を耕し、集めた野菜や果物クズなどのゴミを発酵させて堆肥を作る過程では、大変な悪臭を発する。何よりも、元々焼却処分になるはずだったそれらのゴミの中には、気が遠くなるような量のプラスチックゴミが混じっていた。

  • ギリシア神話の「シーシュポスの岩」の神話(シーシュポスは神々を欺いた罰として巨大な岩を山頂まで上げるよう命じられるが、あと少しで山頂に届くというところまで岩を押し上げると、岩はその重みで底まで転がり落ちてしまい、この苦行が永遠に繰り返されることから、果てしない徒労を指す)のように、ゴミに混じった大量のプラスチックと終わりなき格闘を続けることになる。堆肥を有機肥料の製品として出荷するためには、土壌の生物や菌類が分解できないプラスチックが混じっていてはならないのである。

  • 阿仁は高雄市大樹区でパイナップルを有機栽培している農家に自分が作った堆肥を納品することとなった。大樹と言えば、日本統治時代からパイナップルの苗の一大産地として名を成した場所だ。この取引先の巴哥(バーガー)もまた、新竹のIT企業の工場長を辞めて故郷に戻り、有機パイナップル農家となった人物だった。境遇や志が似通っている阿仁とは、共鳴するところもあったのだろう。

  • ところが、2018年にそれまで台湾パイナップルの主力の出荷先だった中国市場に禁輸措置が敷かれ、国内需要も飽和したパイナップルの市場価格が大暴落してしまった。阿仁は少しでも巴哥を助けたいと道端で有機パイナップルを売るが、焼石に水だった。目を覆いたくなるほど大量のパイナップルが廃棄処分となり、巴哥も一千万元を超える債務を抱え、パイナップルの栽培から手を引いてしまう。パイナップルは植え付けから収穫まで18か月もかかる作物だ。2年越しで育てなければならないこの果物は、翌年すぐに挽回するということもできないのだ。

  • 阿仁の不運は続く。この年、阿仁に土地を貸し出していた台湾製糖が所有するこの一帯の土地を「橋頭科學園區(橋頭科学工業団地)」として、新たなIT産業の基地にすると高雄市政府が発表した。早晩、阿仁が堆肥を作っていた土地は没収される。憔悴した阿仁は苦悩の末、5年半に渡った自らの夢に終止符を打つ決断をし、2019年10月11日に自分の夢を賭けたこの土地を離れた。その後、阿仁は新竹で再びエンジニアとして家族とともに暮らしている。

  • 江蕙(ジアン・ホェイ)さんの歌で『繁華攏是夢(ホアンホアロンシーバン/華やぎは全て夢)』をOA。自分の夢を賭けた阿仁さんに贈る歌としたい。

<第2セクション:ドキュメンタリー映画『種土』:安和哥の成功?>

  • もう一人の主人公は、2017年の撮影開始当時、59歳のインドナツメ栽培農家の安和哥(アンハーガー)だ。安和哥は道教の『清靜經』に示された自然の道の教えに従い、限りなく自然と共生する果樹園を目指し、25年前から農薬を一切使わない自然農法によって少しずつ土地を養成してきた人物だ。雑草は腰の高さまで生え放題、落ち葉をそのまま肥料とし、ナツメの樹に付いた毛虫も一匹一匹手で取り除いて別の場所に移した。収穫期には果実に袋がけをしたり、果樹園全体を鳥除けの網で覆ったりはするが、一部の葉っぱや果実は鳥や昆虫の餌となるのも良しとしていた。安和哥は風や鳥の声を聴き、土の匂いを嗅ぎながら自分の農園でハンモックに揺られ、うたた寝をするのが何よりも幸せに感じていた。

  • このように命を尊び、自然を尊ぶ安和哥だったが、かつては村人からは「役立たずの農夫」と嘲笑されたこともあった。現在の自然農法に辿り着く前は、サトウキビの搾りかすで堆肥を作ったり、有機肥料を試したりしたこともあったが、作物は虫に全部食べられてしまい、最初の5年間は全く収穫が無い年が続いた。6年目になってようやく土壌が蘇り始め、有機ナツメが豊作となった。それだけではなく、土壌も徐々に柔らかくなり、その中からミミズも現れ始めた。土地が生き返った瞬間だった。

  • 安和哥は、有機堆肥で土地を蘇らせたいと願う阿仁の良き相談相手でもあったが、二人の間には意見の食い違いもあった。例えば果樹の落ち葉や枝や雑草がそのまま肥料となり、自然のものから自然のものへ、いわば「清から清へ」と還元させる自然農法を趣とする安和哥の目から見ると、都市のゴミから有機堆肥を作り出そうという阿仁の試みは、「濁から清へ」という自然の摂理に反するものに映った。安和哥はこの方法には無理がある、自然の摂理に叶った方法に立ち戻るべきだと阿仁を説得しようとするが、阿仁は努力は必ず実を結ぶはずと反論し、これを聞き入れない。

  • 阿仁は台湾大学大学院を出たエリートで有機堆肥作りの研究と理論を構築し、それを盾にしている。一方、安和哥は小学校しか出ていないが、道教の『清靜經』への信仰を拠り所に、自然への敬服と揺るぎない信頼を持っている。この二人の対比が、このドキュメンタリーのもう一つの魅力でもある。

  • 安和哥の農園ではナツメが豊作の年が続いた。安和哥のナツメは香りが高く甘いとの評判で良い値段も付いた。安和哥と苦楽を共にしてきた妻に加え、幼児保育を学んでいた長女も農園に戻って来た。全てが順調に思えた。ところが、「橋頭科學園區」構想の土地の使用範囲には、安和哥の果樹園も含まれていた。25年かけて養ってきた大事な土地を手放し、新たな土地で一から出直す選択は、還暦を超えた安和哥には無かった。親族が所有する農園の一部は売られてしまったが、自分が所有する土地だけは守った。長女は都会に出て行き、果樹園の面積は小さくなってしまったが、安和哥は現在もナツメを育てている。

  • 王菲(フェイ・ウォン)さんの『紅豆(あずき)』をOA。自然の運命を受け入れ、自分の信念は堅持し続ける安和哥への応援歌としたい。

 

<第3セクション:ドキュメンタリー映画『種土』:課題を可視化し観客に問う>

  • 『種土』は、台湾南部の小さな村に暮らした阿仁、安和哥という二人の農民が、次の世代のために傷付いた農地を蘇らせようと、それぞれのやり方で呆れるほど真っ正直に信念を貫いた、貫こうとした物語の記録である。二人とも、さあこれからというところで、降って湧いた「橋頭科學園區」構想によって、再び振り出しに戻されることになる。阿仁は夢を諦め、IT企業のエンジニアという元いた場所に帰っていく。安和哥は、それでも何とか自分の土地に踏み留まり、今も農家を続けている。では、阿仁は失敗者で安和哥は成功者なのか?

  • 先日、卓榮泰行政院長(首相)や王正旭立法委員(国会議員)といった政府や国会の要人が、このドキュメンタリー映画を観に行ったとのニュースを目にした。ドキュメンタリー作品にもかかわらず、この映画が台湾全土で上映されているのは、クラウド・ファウンディングで700万元近くが集まった結果である。企業などによる映画館貸切上映も多い。この作品によって、台湾の農地が抱えている問題が可視化され、多くの人々の関心も呼んでいる。今後は政府による何らかの施策も検討されるかもしれない。長期的に見れば、こうした大きな動き引き起こすことに繋がった阿仁も安和哥のどちらの生き方も、成功したと言えるのではないだろうか。

  • もう一人、呆れるほど真っ正直に信念を貫いた人がいる。顔蘭權監督である。この作品の完成に足掛け8年の歳月を費やし、1,800時間ものフッテージの映像を撮り、それを2時間23分の作品に編集して仕上げるなど、これは褒め言葉として言うが、まさに狂気の沙汰である。それがどれだけ大変なことか…映像の世界に身を置く自分は、より身に染みて理解できる。顔蘭權監督の驚異的な粘り、努力、胆力に心から敬意を表したい。

  • しかしながら、9月5日の試写会の現場には顔監督は現れなかった。実は顔監督は闘病中だった。その代わりに、上映後に配給会社の社長で映画監督でもある王師さんより、顔蘭權監督から観客の皆さんへのメッセージの録音テープが流された。監督は次のように述べたという。「『種土』という作品と皆さんが巡り会えたのは、本当に素晴らしいことです。皆さんがこの土地を守ってくれています。メディアとなるチャンスをいただいたこの『種土』が、一つの力となってお互いに繋がってくれることを望んでいます。私は多くの皆さんが『種土』というドキュメンタリー映画を前に推し進めてくださっていることに感激しています。私や阿仁、安和哥も、自分たちは孤独ではなかったと感じさせてくれています。」

  • また、顔監督はこのようにも述べた。「私の初志と同じように、お一人お一人が「土」というものに目を向けてくれさえすれば、私たちが台湾の土地を改善させていくチャンスはあります。私たちのこの土地を育てていくチャンスはあります。土地は呼吸ができるようになるはずです。」顔監督はこう締めくくってくれた。「この映画を観て作品を気に入ってくれて、土壌環境の問題に関心を持つ一人一人の手に作品を託したい。台湾の土壌が日に日に改善してくれれば、それが私たちにとって一番の健康であり、一番の幸せである。」

  • 台湾に暮らす多くの人々に、文字通り身を削って、この土地が抱える問題を浮き彫りにしてくれた顔藍權監督、阿仁、安和哥の功績は計り知れない。そして、この作品の上映の実現を応援してくださった方々のご尽力にも、一人の観客として感謝したい。この作品は是非多くの皆さんに観ていただきたい。また、現在闘病中の顔監督が、そして台湾というこの土地が、健康を取り戻して元気に戻ってきてくれることを願ってやまない。

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