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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」) - 2024-07-14

  • 14 July, 2024
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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)
最優秀華語男性歌手賞と最優秀作詞家賞をダブル受賞したMC HotDog熱狗さん(写真提供:中央社)

<第1セクション:今年のGMA「金曲奨」授賞式典はトラブル続き?>

  • 2週間ほど前になるが、6月29日に台湾のグラミー賞とも言われれる、「金曲奨(Golden Melody Awards)」授賞式典が「台北小巨蛋(台北アリーナ)」で行われた。ロックバンドの草東沒有派對(No Party for Caodong)が『瓦合(The Cold)』で最高賞の年間アルバム賞を含む最多の3冠に輝いた。「金曲奨」は1990年から始まった台湾、ひいては広く中華圏を代表する音楽賞であり、「文化部影視・流行音楽産業局(文化省映像・流行音楽産業局)」が主催する。今年はアルバム1568枚、計2万4071件の応募があったそうだ。毎年多くのアーティスト、音楽関係者が鎬を削ってこの賞を目指している。

  • さて、今年の「金曲奨」授賞式典を私はネット配信の画面越しに視聴した。率直にいうと、例年に比べこぢんまりとしていた、もっと踏み込んで言えば、華やかさや盛り上がりにやや欠けていたと感じた。東京から式典に参加した音楽メディア関係の方も「今年はいつもより静かに感じた」と述べていた。誤解のないように断っておくが、これはノミネートしたり、受賞したりしたアーティスト、楽曲とは一切関係がない。式典の運営、ショーとしての見せ方に改善の余地があったのではないかということだ。また、後ほど詳しく触れるが、両岸問題をどう扱うべきかという理念も、もう一度見直すべきではないかとも感じた。

  • まず、オープニングに乳児の泣き声が聞こえるというネタは、緊迫感のある音楽ショーの始まりとしては首を傾げたくなるような内容だった。また、オープニングで歌われた童謡も、かつて著作権に関してアーティストとの間でトラブルを起こした人物の手による楽曲で、どうしてそのような選曲となってしまったのかというコンプライアンスに対しての疑問が残った。また今回、最優秀華語男性歌手賞と最優秀作詞家賞をダブル受賞したMC HotDog熱狗さんのステージの際に、マイクの不具合でボーカルの音声が流れなくなるという技術的なトラブルも発生。MC HotDog熱狗さんが途中で演奏のやり直しをリクエストするという、関係者の誰もが頭を抱えるような事態となってしまった。もちろん、ライブ演奏では不測の事態は起こりうる。しかし、「金曲奨」という最高峰の音楽の祭典での生放送、生配信中の事故は、式典の運営に対する信頼を問われることになってしまう。

  • 「金曲奨」にノミネートされた中国籍のアーティストの式典への不参加も影を落とした。6月30日付の中央社の報道によると、「華語男性・女性歌手賞には中国の歌手が計4人ノミネートされていたが、全て出席を取りやめた。文化部によれば、男性歌手のジュード・チウ(裘徳)は前日までに台湾入りしていたものの、体調不良のため、急きょ中国に戻る必要があるとの連絡を受けたという。欠席の理由について、チウの所属レコード会社は中央社の取材に対し、個人的な要因だと説明した。」明確には述べられてはいないが、昨今の両岸関係を考慮し、アーティスト側が本国で帰国後の処遇を危惧して参加を見送ったと考えるのが普通であろう。ここで、授賞式典本番でマイクのトラブルに見舞われてしまったMC HotDog熱狗さんへの個人的なエールと受賞へのお祝いも込めて、最優秀作詞賞授賞曲の『髒芸術家』をOA。

<第2セクション:巴奈(パナイ)さんの発言の波紋>

  • 続いてご紹介したいのは、台湾原住民族プユマ族とアミ族のミックスである巴奈(パナイ)さんが、台南で育った彼女の実は母語でもある台湾語で歌ったアルバム『夜婆(ヤァポー)』で、最優秀台湾語アルバム賞を受賞したことだ。プロデューサーは昨年の「金曲奨」でも最優秀アルバムプロデューサー賞を受賞し、数々の映画音楽を手掛け、私も一緒に仕事をしたことがある柯智豪(ブレア・コー)さん。個人的に喝采を送りたい。

  • 現在の「金曲奨」では、歌手の個人賞、アルバム賞は「華語(中国語)」「台湾語」「客家語」「原住民語」と歌われる言語によって部門が分かれている。圧倒的多数派の華語(中国語)だけの括りではなく、比較的少数の言語を母語とする歌手や制作チームにチャンスを与えるという効果をもたらしている。その一方、2007年の第18回「金曲奨」で最優秀客家語歌手賞と最優秀客家語アルバムを受賞した林生祥(リン・シェンシアン)さんが、音楽は言語や族群(エスニックグループ)によって区分されるべきではなく、ジャンルによって分けられるべきであると授賞式で発言し、トロフィーの受け取りを拒否するという事件が起こった。この事件は争議をもたらしたが、2010年より「金曲奨」とは別に、ロック、フォーク、ヒップホップ、ジャズ・ブルースなどのジャンル毎の部門で争われる「金音奨」が創設されたことは特筆に値する。

  • さて今回、巴奈さんによる衝撃は、言語や族群の枠を超えた台湾語のアルバム賞を受賞したという点に止まらなかった。受賞後の挨拶で巴奈さんは天安門事件に言及し、今年の「金曲奨」の話題を一気にさらっていった。これも7月1日付の中央社の記事から引用する。「天安門事件は1989年に中国・北京で民主化を求める学生らが武力弾圧された事件。パナイさんは受賞スピーチで、金曲奨が今年で35年目を迎えたことに触れた上で、『天安門事件もちょうど35年です。忘れてはなりません。台湾頑張れ』と訴えた。これを受け、パナイさんの作品や関連の議論は中国のインターネット上から消失した。」これに対し、巴奈さんはマネージャーを通じて「彼らの行為は台湾のかけがえのない自由をさらに浮き彫りにした」と語ったそうだ。

  • 頼清德総統もこれに反応し、自らのFacebookで「音楽は人生であり、何にも縛られない自由なものだ」「全ての音楽家の創作の自由を守り、より良い環境と舞台を引き続きつくっていく」と表明。また、「金曲奨」を主催する文化部(文化省)トップの李遠部長(大臣)も、同じくFacebookで「残酷な『天安門事件』は全力で覆い隠され、消え去られる歴史になった。35年後に台湾の金曲奨の授賞式上でパナイさんによって再び持ち出された」と記し、「理想のための堅持に感謝する」と表明した。

  • 巴奈さんは自分の理念を真っ直ぐに通す人である。相手が中国であろうが、自国の政府であろうが、忖度はしない。夫の那布(ナブー)さんとともに、台湾の総統府前で「台湾原住民」の尊厳を守るために、7年間テントを張って抗議をし続けた人である。彼女の気概には、ただただ拍手を送りたい。巴奈(バナイ)さんが歌い、最優秀台湾語アルバム賞を受賞した『夜婆(ヤァポー)』からアルバムタイトル曲『夜婆(ヤァポー)』をOA。

<第3セクション:中国の踏み絵と「統戦」の影>

  • さて、授賞式典のスケールが以前より小さくなったと感じられるのは、「金曲奨」に限らない。「金馬奨国際映画祭」や、先日私も参加した「台北映画祭」も同じことが言える。台湾の受賞者の本土意識を表明する発言が続いたことが引き金となり、数年前からは中国からの作品や審査員、監督、プロデューサー、俳優ら映画関係者の参加が鳴りを潜めてしまった。その影響は決して小さくはない。しかしながら、台湾で開催される音楽賞や映画賞を中国が政治的な駆け引きの道具として使い続ける以上、今の状況はやむを得ないと思う。個人的には芸術や文化は、政治的な影響を決して免れることはできないし、むしろ、政治的な要因からの反作用から、多くの優れた芸術が生み出されることもあると思う。台湾のアーティストや制作関係者には、創作の自由が保証される環境下で、より良質な作品をこれからも作り続けてほしいと願う。

  • ずっと懸念していることがある。台湾の多くのアーティストたちが、中国での大きな市場を手に入れるために、「踏み絵」を踏まされていることである。つまり、中国側が主張する「一つの中国」政策を受け入れて、アーティストが台湾が中国の一地方であることを認めることを条件に、中国国内での活動を保障するというものである。これには当然賛否両論があり、台湾を中国に売る行為だと咎める立場の人もいれば、会社や家族を養っていくためにはやむを得ない、背に腹は変えられないという論調も聞く。個人の思想信条に立ち入ることはできないが、中国の「統戦(統一戦線工作)」は、こうして浸透していくということは頭に入れておくべきだろう。先人たちが時には命を賭け、何十年もかけて手に入れた自由や民主といった価値観は、台湾の最大の財産の一つだと私は思う。

  • 今年の授賞式典では、日本から「生物股長」とこちらでは表記される「いきものがかり」のお二人がゲストとしてステージを務め、『Blue Bird』と『Sakura』の2曲が披露された。いきものがかりさんは、実は結成以来初めての海外でのステージだったそうだ。『Blue Bird』は人気アニメ『NARUTO-ナルト』のオープニング主題歌として知られ、台湾では『青鳥』と訳されている。サビの「蒼い蒼いあの空」というフレーズは、式典の会場でも多くの観客が一緒に口ずさんでいた。本来は蘇打綠(ソーダグリーン)さんとの共演となるはずだったが、ソーダグリーンのメンバーが体調を崩してしまったため、残念ながら単独でのステージとなった。昨年はKing Gnuさんがゲストに呼ばれて圧巻のステージを務めていたが、日本のアーティストのパフォーマンスをこのように金曲奨の授賞式典で観られるのは素直に嬉しい。流行音楽の世界でこうした日本と台湾の国際交流が進んでいくのは、今後の方向を見据える上でも望ましいことと感じる。

  • さて、いきものがかりさんが『Blue Bird』を選曲したことに、おやっと思った方もいたかもしれない。先ほども述べた通り、台湾でのこの曲のタイトルは『青鳥』だ。5月、6月に毎週のように市民が立法院(国会)を取り囲むデモに立った。このデモは「青鳥行動」と名付けられた。台湾の立法院の審議の手続きが拙速だったことや法案の内容に抗議して市民が取った行動だった。いきものがかりさんがこの「青鳥行動」を意識してこの歌を選曲したのかどうかは定かではない。おそらくは偶然ではあろうが、結果的にある種のメッセージを発することとなったのは興味深い。来年、再来年と続く「金曲奨」の受賞式典がより魅力的なものに昇華していく姿を期待してやまない。では、本日はいきものがかりさんの『Blue Bird』をOAしてお別れ。

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