<第1セクション【台湾の中秋節と言えば】>
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間も無く台湾では旧暦の8月15日、「中秋節」を迎える。今年は9月29日(金)がその日に当たる。中秋節は日本では「お月見」をする日として、伝統的には月見団子やススキの穂を月にお供えし祝った。これは、まあるい団子は十五夜のお月さんを、ススキはその形が似ていることから稲穂を表し、ともに豊年満作を祈念するアイテムだった。月にウサギが住んでいて餅つきをするという伝説を信じていた幼少期は、この日はお正月、七夕と並んで心が踊る年中行事の一つだった。
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華人社会の台湾にとっても大切な年中行事の一つである中秋節。その由来だが、唐の時代に杜佑が著した『通典(つてん)』(古代から唐代に至るまでの中国の政治や法令制度の沿革とその変遷を綴った「政書」)の記載によると、古代の帝王は春には太陽を祀り、秋には月を祀るしきたりがあった。古くに儒教の経典の一つで、紀元前の中国の戦国時代の書とされる『周禮(しゅらい)』には既に「中秋」という言葉が見られ、「仲秋」と書き慣わされてきた。旧暦の8月は秋に入ってから2つ目の、すなわち中間の月に当たり(旧暦7、8、9月が秋)、また15日はひと月のちょうど真ん中の日であることから、この日を「中秋」と呼ぶようになった。
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また、中秋節を盛大に祝うようになったのは唐の時代からで、貴族や文人たちがこの頃から月を愛でるようになった。南宋の孟元老によって北宋時代の首都・開封(かいほう)の繁栄を回想録としてまとめた『東京夢華錄(とうけいむかろく)』(「東京」とは「東京開封府」のこと)にも、宋の時代の中秋節は、月を祀ることも含め、相当賑やかに祝っていた様子が描写されている。明や清まで時代が降ると、中秋節は家族や親族が一同に会し、月を愛でるという風習が確立していった。
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中秋節が風習として定着したのには三つの側面がある。一つ目は豊年満作を祝ったのが始まりという面。中秋節は農作物の収穫の季節と重なり、「秋」という漢字の字義も「莊稼成熟曰秋(そうかせいじゅくしいわくあき。「荘稼」は「農作物」の総称)」。すなわち、「農作物が熟すことから秋という」という意味。民俗学の立場から見ると、中秋で月を祀るのは、もともと農民が秋の豊作を祝ったことが起源で、またこの日に同時に「土地神」祀ったことから、「中秋」が節気の一つとなり、神様への感謝を表す場となったというもの。
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二つ目の側面は「嫦娥奔月(じょうがほんげつ。嫦娥、月にはしる)」の神話伝説から来ているもの。嫦娥と弓の名手・后羿(こうげい)はおしどり夫婦だった。だが、嫦娥はある時、不老不死の仙女「西王母」から不老不死の薬「仙丹」を盗んでしまう。仙丹を飲み込んだ嫦娥は、自らも仙女となり月に昇って行き、后羿とは離れ離れになってしまったというもの。永遠に満ち欠けを繰り返す月に、人々は不老不死を重ね合わせたのだろうと言われる。そして、嫦娥が月に昇って行った日、すなわち旧暦の8月15日に月の下でお供物をし、天上の嫦娥の平安と夫の后羿との円満を祈ったことが、中秋節に月を愛でるようになった始まりというもの。そして、日本人にとって馴染みの深い「かぐや姫」の民話は、実はこの「嫦娥奔月」が下敷きであることは広く知られている。
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三つ目の側面は、近年取り上げられるようになった唐王朝の建国の功労者である「裴寂(はいせき)」の故事に基づくもの。歴史研究によれば、中秋節の由来は唐軍が隋末の大業13年(西暦613年)8月15日に、唐軍の裴寂が満月を見ていた時にインスピレーションを得て、月餅を軍人に食糧として振る舞ったところ、隋に反旗を翻した義勇軍の取り込みと唐軍全体の食糧不足の解決に成功した。唐王朝が始まってからは、褒賞を家臣に賜う習慣が確立し、明朝、清朝に至っては中秋節が中国の一大伝統行事となったとするもの。
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一つの年中行事や風習として定着するまでには、核となる物語が一つ、または複数あって、長い年月をかけて尾ひれはひれが付いて一つの文脈へと編み込まれていくというのが、大方のプロセスなのではないかと私は思っている。
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伍佰 & China Blueさんの最新アルバム『純白的起點』から『嫦娥』をOA。
<第2セクション【中秋節に「月餅」はもう古い?】>
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先ほど月餅の起源について話をしたが、台湾の巷でよく見かける種類としては、「廣式(広東式)」「蘇式(蘇州式)」「京式(北京式)」「港式(香港式)」「台式(台湾式)」などがある。「廣式」は皮が薄く、黒棗やなた豆、ささげ豆、小豆などが入った甘い濾し餡がぎっしりと詰まっている。餡の中央に塩漬けのアヒルの卵の黄身が入るのも一般的。形は角のとれた正方形。老舗の菓子屋や高級ホテルで販売されているのもこの「廣式」が圧倒的だ。「蘇式」は何層も重なったパイ生地のような皮が特徴的で、表面はサクサクとした食感。まん丸でやや平べったい形。「京式」は皮も餡もずっしりと重く胡麻油の香りが立つ。餡には胡桃や松の実などのナッツ類も多く使われる。日持ちもして形は平べったいまん丸。「港式」は、餡にカスタードクリームが使われることが多い。1980年頃から流行した比較的最近のスタイル。やや小粒で形はやや厚みのある円形。
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そして、「台式」は日本の製パン技術と台湾の素材が組み合わさったものとされ、一般的には「蛋黃酥」と呼ばれるものが主流で、やや厚めのパイ生地の中にアヒルの塩漬け卵が鎮座するのが特徴。皮の表面にも卵黄を塗って焼き上げ、やや小ぶりで形もふっくらと丸い。また、子どもたちに人気のアイスクリームの入った「雪餅」や近年では「鳳梨酥(パイナップルケーキ)」や「鳳凰酥(卵の黄身入りパイナップルケーキ)」も、月餅の変形バージョンとして贈られるようになった。さらには、デザイン性を重視し、カロリー控えめで、「馬告」や「刺葱」など台湾独自のスパイスを効かせたもの、チョコレート餡のもの等、個性的な月餅がどんどん出現し、むしろ伝統的な「月餅」を凌駕しそうな勢いだ。
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「端午節」の時には、親戚や友人、会社同士で、ちまきを贈り贈られ、ちまきが飛び交うのだが、「中秋節」は月餅が飛び交う。最近は無縁だが、以前はこの時期は何箱も月餅が自宅や職場に積み重なるのが常だった。また、台湾では「柚子」と書くが、この時期に旬を迎える文旦、ザボンも食べる。まん丸で柑橘類で最大級のザボンも月と形状が似ていること、南国の台湾の特産であることから、独特の風習として発展した。このほかに、この季節はザボンが実るだけでなく、「桂花」と呼ばれる金木犀が満開となる。金木犀を愛でたり、金木犀の入った「桂花酒」を嗜むこともある。中秋節に清朝の乾隆帝が何年も寝かした「桂花酒」を飲んだエピソードが残っており、これに由来する風習だ。
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もう一つ、台湾独自の風習として、この数十年で定着した家族や友人たちで「烤肉(バーベキュー)」パーティーを行うことだ。台湾の大手調味料メーカー、醤油メーカーが大規模な広告を打って推奨したのが始まりだ。ちょうど日本のバレンタインデーのチョコレートのように、この商業戦略に台湾の人たちは見事に乗った。家庭内やレストランだけでなく、道端で炭を起こしてバーベキューをする市井の人々の姿は、既に台湾の中秋節の風物詩となった。十数年ほど前にはバーベキューで発生する煙が環境問題として取り上げられたこともあったが、この日ばかりはお月様も多めに見てくれることだろう。
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ここで本日2曲目の月の歌。蘇芮(ジュリー・スー)さんの歌で1983年の台湾映画『搭錯車(乗り間違えた車)』の挿入歌『一樣的月光(同じ月の光)』をOA。この曲を初めて聴いたのは1987年ごろ、上海でだったが、歌詞に出てくる「新店渓」という川がどこにあるのか想像がつかなかった。2007年に台北で暮らすようになって、台北の郊外を流れる新店渓を初めて見た時、20年の時を経てようやくこの歌の世界が理解できた。
<第3セクション【中秋節の祭礼・タブー】>
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最後に中秋節の祭礼とタブーについて、触れておきたい。台湾では家族が集まるこうした重要な「節気」には、「祖先」と「土地公(土地の守り神)」、そして「月娘(月)」に参拝する。祖先参拝の際のお供えの品は「三牲」と呼ばれる三種類の肉(一般的には豚、鶏、魚)、もしくはベジタリアンの場合は「三素」と呼ばれる肉を模し、大豆やこんにゃく等で作られた食品。「土地公」には自分たちの住む土地への加護と、農作物の豊作に感謝を捧げる。「月娘」には月餅、ザボン、柿などをお供えし線香を上げる。丸いものをお供えするところは台湾も日本も同じ。
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中秋節のタブーもいくつかご紹介。仙女となって月に昇って行った嫦娥が人間界にいた頃、ウサギがとても好きだった。したがって、この時期ウサギをいじめてはならない。さもないと嫦娥に訴えられて天罰が降りるという。また、男性は月を参拝してはいけない。清朝の富察敦崇の著した『燕京歲時記』によれば、男性が月を拝むと体調を崩しやすく、月の引力の影響を受け睡眠の質が低下するという。反対に女性は「灶神(Zaoshen,竈門の神様)」を拝んではならない。同じく『燕京歳時記』には、竈の神は陽を司り、月の神は陰を司る。したがって、陰陽では陽となる男性は陰のものを拝むことはタブー、女性は陽のものを拝むのはタブー。目に見えない存在からの障りを受け、突然体調を崩す原因となりかねないというのが伝統的な考えのようだ。
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今夜は鄧麗君(テレサ・テン)さんの歌った名曲『月亮代表我的心』をお聴きいただきながら、お別れしたい。この曲は1973年に最初に歌ったのは陳芬蘭さん。1977年にテレサ・テンさんがカバーすると、世界中の華語圏で大ヒット。その後も多くの歌手がカバーし、誰もが口ずさめる中国語歌謡のスタンダードに。2010年『華語金曲獎』が選ぶ『30年華語經典歌曲(過去30年華語スタンダード曲)』で第1位を獲得。日本語、韓国語、インドネシア語、ベトナム語、英語、フランス語、ロシア語等のバージョンが存在し、日本語では夏川りみさんが『永遠の月』のタイトルでカバーしている。
Rti 台湾国際放送
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