今月3月3日、日本の文化庁が令和2年度の「芸術選奨」受賞者を発表しました。
この「芸術選奨」とは、文化庁による芸術家の顕彰制度で、演劇、映画、音楽、舞踊、文学、美術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論など、メディア芸術の11分野において、その年に優れた業績を上げ、新生面を開いた人物に「芸術選奨文部科学大臣賞」または、「芸術選奨新人賞」が贈られるものです。
第71回となる今回は、「鬼滅の刃」の作者である吾峠呼世晴や、シンガーソングライター・米津玄師、女優・鈴木杏など、文部科学大臣賞を18名、文部科学大臣新人賞を11名が受賞しました。
その受賞者の中の、文学部門の「新人賞」に台湾出身の女性「李琴峰」さんが選ばれました。
この「芸術選奨新人賞」と言えば、過去に、吉本ばななや、平野啓一郎、川上未映子、柴崎友香なども受賞したことがある賞。今回、その賞を台湾人として初めて獲得しました。
作家である「李琴峰」さんは、1989年台湾生まれ。15歳から日本語の勉強をはじめ、そのころ中国語での小説も書き始めたそうです。台湾の最高峰の大学である、国立台湾大学で日本語学科と中国語学科の二つを専攻し、大学卒業後の2013年に日本へ。そして、早稲田大学大学院日本語教育研究科の修士課程を修了。
2017年に初めて日本語で書いた小説「独り舞」が、「第60回群像新人文学賞」優秀作を受賞し、作家デビューを果たします。以来、日本語と中国語の二言語作家として、創作活動の他、翻訳や通訳などを行っていました。
そして2019年、小説「五つ数えれば三日月が」が「第161回芥川龍之介賞」そして「野間文芸新人賞」にノミネート。短期間のうちに次々とノミネートされてきましたが、今回、「ポラリスが降り注ぐ夜」で、日本語を母語としない、台湾人として初の「芸術選奨新人賞」を受賞しました。
この「ポラリスが降り注ぐ夜」は、新宿二丁目のBARポラリスを舞台に、同性愛の女性たちが、年齢、セクシャリティ、アイデンティティを超えた自分を旅する物語。バーに集う、国籍も、仕事も、東京に来た理由も、セクシャリティも違う7人の女性たちの7つの恋の物語が描かれています。
文化庁はこの作品への贈賞理由として、「我々は今なお、いわゆる性的マイノリティーの人々を正常・異常のカテゴリーでとらえがちだ。『ポラリスが降り注ぐ夜』はそうした線引きのはざまで苦しむ若者たちの、悲痛な、しかし連帯と変化への希望に満ちた物語である」とし、「台湾からやってきた作者は力強い筆遣いで、内向しがちな現代日本の小説に清新な風を吹き込んだ」としています。
また、選考過程において、「様々な性的マイノリティーの集まるバーを舞台に、そこにかかわる人々の姿を丹念に描き、東アジアの現代史や歴史を背景に、政治運動、文化的多様性、差別といった様々な問題に果敢に切り込んでいった李琴峰氏の『ポラリスが降り注ぐ夜』が、やはり圧倒的支持を得て受賞に至った」としています。
日本語で小説を書く台湾人作家と言えば、温又柔さんや、東山彰良さんが有名ですが、二人は幼い時に日本に移住し、日本で育っています。
でも、大学までを台湾で過ごし、大学院から日本に渡った「李琴峰」さん。母語の中国語ではなく、なぜ日本語で小説を書こうと思ったのかということについて、RTIの中国語放送の番組の電話インタビューで、「元々、台湾にいたころ中国語で小説は書いていて、日本で生活するようになって、次第に日本語を使って表現することが普通のことになってきたので、日本語で書いてみようかなと思い、書いてみたら賞をとれた」と語っています。これにはインタビュアーも「それはすごい!」と驚きとともに笑っていました。
そんな彼女ですが、幼少時代はほとんど日本語に触れる機会もなく、中学時代まで「あいうえお」も読めなかったそうです。それが15歳の時に突如、日本語を習ってみようと思ったのがきっかけで日本語を学び始め、学んでみると日本語の美しさに魅了され、気づけば十何年も経っていたと語っています。どうしてそんなに長く日本語を学んでこられたのか、しかもどうしてそんなに日本語が上達したのかと聞かれれば、「日本語に恋をしたから」と答えるほかなさそうだと語る「李琴峰」さん。
これまでに「独り舞」、「五つ数えれば三日月が」、「ポラリスが降り注ぐ夜」、そして「星月夜」の4作が書籍化され、そのうちの「独り舞」、「五つ数えれば三日月が」は自ら翻訳を手掛けた中国語版が台湾で出版されています。
彼女が“恋をした日本語”で表現された物語は、日本語を母語とする人の心にするりと入ってきて、ジワリと浸透する、そんな力があるように思います。
Rti 台湾国際放送
Rti 台湾国際放送 
